「マド。俺と交換しよう」
オカシラもマドもきょとんとアロンを見る。言っている意味が分からなかったのだ。
いち早く把握したマドが「いいのか?!」と嬉し気に近づく。
「いやいやアロン。気は確かか!?
この人間のために?言っちゃなんだが、人間のなかでもしょうもない部類だぞ?」
一方オカシラは、うめき声をあげるばかりのルツを指さした。
確かにオカシラの言う通りかもしれない。
将来の、これといった展望がなく、人望もない。
先の予測も十分にせず、今の状況から逃げたがる。
なのに見栄っ張りな面倒さもある。
それでも。
「そのしょうもないところも、面倒なところも、全部、大事にしたいと思ったんだ」
オカシラは「あちゃ~」と顔を覆って天を仰いだ。アロンがまさかダメ専とは思わなかった。せっかくナンバー1になったのに、頼りにしていたアロンがいなくなると面倒事が増えるだろう。がっくりと肩を落とす。
マドは喜色満面で、さっそく取り掛かろうとアロンをせっついていた。
「マド、どうすればいい?」
「うむ。理想的なのはどちらかが弱っている状態なんだがな…」
互いに怪我もなく健康なため、本人たちが同意していても反発してしまうらしい。
「じゃあ、ルツの背骨の怪我を俺が引き受けることはできないか?」
それならルツの意識ももどるだろうし、アロンが弱ることになる。マドも目を輝かせて名案だ!と膝を打った。
ルツを戒めていた縄を解く。後ろを向けと言われて背中を見せると、マドの手がちょうどルツが怪我をしている背の中心に当てられた。視界の端で、ルツにも同じように手が乗せられているのが見える。
来るだろう痛みに備えて、ぐっと奥歯を噛んだ。
「・・・礼の代わりだ」
マドがそうぼそりと呟いて、アロンの背から手を放す。ルツの背に乗った手はそのままで。
どういう意味だと振り返るのと、マドがガクリと膝をつくのは同時だった。
「マド!?」
「うぅっこれは結構…い、痛いな…!」
いたたたと顔を顰めている。ルツの怪我をマドが請け負ったのだ。
「おいおい珍しいな。お前がそこまでするなんて」
オカシラも寄ってきて、驚いている。
顔から汗を掻きつつ、マドは彼の手を借りてなんとか立ち上がった。
「放っておけばくっつくだけだと思っていたが、これは痛い…。
ルツが起きるだろうから、わしらは少し離れるぞ。
でもあんまり待てないからな!さっさと話しをつけて、腹の子を産ませるなり上書きするなりしてこい!」
ルツの瞼がピクピクと動き、起きそうな気配を見せる。
マドはオカシラにも「ナンバー2になってやるから、魔物になるまで護衛しろ」と勝手に背中に乗った。
「うぅ…」
「ルツ、起きろ。時間がないぞ」
マドとオカシラが去ってすぐ、ルツは億劫そうに目を開けた。アロンと目が合う。
「俺…、あ、俺、魔物に…!」
アロンの家から抜け出したこと、魔物に見つかったこと、代わる代わる種付けされたことをようやく思い出し、ルツは青くなった。枷は外されていたがまだ台に乗ったままだ。腹の圧迫感をいまさら思い出す。
「あぁ、魔物に捕まって、腹にさんざん出されたな」
「い、いやだ…!魔物を産むなんて、…っ」
アロンはルツの脇に手を差し込んで、起き上がらせた。抑えがなくなり、異様に膨れた腹が露わになる。
「うあぁっひぃ…!」
想像以上の大きさにバタバタと暴れる体を、背後から拘束してアロンは「諦めろ」と言った。
「ここまで育ったら、どうにもならない」
「やだぁ…、アロン、ごめん。逃げてごめん…。助けてくれ…!」
アロンの冷たい言いように、家から逃げたことで見放されたのだと思ったのか、しゃくりあげて懇願する。
「なかったことにはできない。
お前は俺の家から逃げた。
魔物に見つかった。
魔物を孕まされた。
事は起こってしまったんだ。ルツ」
「うぅぅ…」
肩の後ろにあるアロンの顔から目を背けて、またボロリと涙が溢れた。
「…だって、逃げ出さずにはいられなかったんだ」
人間としてはそれなりの体格の男が体を小さくして泣く。
「アロンと一緒にいると、情けなくて。自分のダメな部分が見えてくるんだよ…。
いままで見ようとしてこなかったものを、ちゃんと見ろって言われてるみたいで」
ズビっと鼻を啜って、怖いんだ。と呟く。
「ちゃんと見ても、俺の中に何もなかったらどうしようって」
何者にもなれないまま、生きていくのはつらいと言う。アロンはルツを、膨れた腹ごと抱きしめた。
「何者になれなくてもいい。
お前の中に何もなくても、俺はお前を好いている」
アロンの突然の告白に、ルツが驚いて振り向くと、噛みつくように唇を奪われた。
長い舌が入ってくる。
「んん、っは、アロン…?」
ようやく口を開放されて、目を白黒させながら後ろの魔物を仰ぎ見た。その風貌からは想像しがたい知性を湛えた目がこちらを見てくる。
もっとよく話し合いたいところだったが、腹がズキンと痛みを訴えた。
「うっ」
「あぁ時間がないんだった。
ルツ、それは俺の子にする」
跨がされていた台の上を反転させて、向かい合う。膨れた腹にそっと触れてアロンが目を閉じる。さきほど、前のカシラがやったように魔物の子の成長具合を見ていた。
だいたい形成が終わっているが、まだ間に合う。
「カシラ似の子は流石に嫌だ。
抱くぞ。いいな」
台に仰向けに押し倒されて、腰を引き寄せられる。
ボロリとアロンは一物を取り出して、切っ先をルツの穴に当てた。
「んひっ
な、なぁアロン、本当に?」
腰を押し付けながら、大きな魔物が頷く。まださんざん嬲られた名残か、ルツの穴は柔く、熱かった。
魔物たちのように一気に貫いたりせず、徐々に埋めていく。
「あぁ。魔物の子は基本は強い魔物に似るが、それはお前の認識が大きく関わってくる。
お前がこれを俺の子だと認識…」
「ちがッ、そうじゃッン、なくて、俺を、その、好いてるって…」
魔物の遺伝について話すのを遮って尋ねると、アロンは「もう一回言わせるのか」と少し恥ずかしそうに口をムズムズさせた。
死んだカシラほど凶悪でも巨大でもないが、それでも大きなものを受け入れて、胸を喘がせながらアロンの簡素な服を掴んでいる。
その様子を見下ろして、ふうと息をつくと、アロンはその力んだ指を外して、自分の指に絡めた。
「愛している。魔物の身を捨ててでも、一緒に生きてほしい」
「…っ」
ふるりとルツの肩が揺れる。からっぽだった自分という器が急に温かいもので満ちたような感覚がした。
「うん、うん、生きる…。
アロンと一緒にいる!
アロンの子供、も、産む…!」
またも涙腺が崩壊した人間を、面白そうに、しかし少し安堵したように笑って、魔物はズンと根本まで刀身を収めた。
「あぁあっアロン…、んっ、深い…!」
腹が膨らんでいるからか、心持なのか、いままでの魔物よりずっと深いところにアロンを感じる。
「動く、ぞ…!」
「あぁッ、突いて、もっといっぱい!
全部塗り替えてくれ!!」
その懇願に、ルツの手を己の首に巻きつかせて、足を抱え直すと、とうとうアロンは加減を捨てた。
「あひっ、アッアッ!すご…ッアロン、アロン…!」
出し入れをするたびに、腹をボテンボテンと揺らしながら、締まりのない口から涎が垂れる。それをもったいないと言いたげにアロンに啜られて、胸が熱くなった。
「んぁア!んぃッん、ぉ、おぅ…!」
獣のような声を上げてしまうが、それを恥ずかしいと思える余裕がもはやない。手に続き、足も絡めて、促すようにアロンの腰を蹴った。
「ッ、…っ出すぞ。
しっかり、孕め、よ!」
これは有象無象の魔物ではなく、自分との子だと洗脳するようにルツの耳に吹き込む。
ぶるぶると身を震わせながら、ルツは大きく頷いた。
「あぁっ欲しい!アロンの、子種…ちょうだい!
んぁッ、ひぃん…―!!!」
アロンが最奥まで切り込んできて、中でドプリと弾ける。大きな波が来て、つま先がきゅうと丸まった。